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コラム:今年、しょっぱなの”香遇”・・・・vol.4
昨年中は大変お世話になりました。
遅ればせながら本年も何卒よろしくお願い申し上げます。
さて、その日の開店一番に電話があり「本日はやっていますか?」という若い男性のおとなしい声だった。
店の一階入口玄関の扉を開けると、歩道の反対側の少し離れた所に一人の男性が立っていた。
視線が合うやいなや、近寄ってきたので、「もしかして、さっきの電話の方かな?」と思ったら案の定、「先程はどうも・・」という挨拶だった。
地下店舗への階段を一緒に降りながら「誰かに聞いてこの店に来たの?」と尋ねてみたが、自ら探して来たという事だった。
聞くところによると、○○美大生で、卒論の仕上げのクライマックスとのことだった。
その卒論のテーマというのが何と「時空と香り」という壮大!?なテーマだそうだ。
誰に聞いても何を言っているのか、雲をつかむようなテーマにしか聞こえないだろうと思うが・・。
その「時空と香り」という卒論のテーマの中に登場する“香水”を探しに来たのだという。
容器のデザインと製作は既に終了しているらしく、
中に入れる液体=「香水」を自分の時空イメージで造るのだそうだ。
当方も実は昨年暮れから今年の初めにかけて、3年4か月程住んだ以前の所から新居に引っ越しをしたので、その時に感じた“時間の匂い”というようなタイトルで当コラムを書こうかなと思っていたので、俄然興味が湧いたのだった・・・
「それにしても世の中には似たようなことに興味を持つ人がいるものだなあ・・、
この人も少し変わった人なのかもしれないなあ・・他人のことも言えないけど・・?
“美大生”ということからしても何かを創造したいのだろうと思うが・・
直観的にこれは接客時間が相当かかるだろうなと思った・・・
なんせ、「時空と香り」という卒論テーマを象徴する“香りのオブジェ”を造るわけだから。
話を聞いていくと、香りは小さい頃から好きで興味があったそうで、すでに“時空香”のイメージは出来ているとのことだった。
さすれば、そのイメージに合う「素香」を求めにここへやって来たというわけである。
「ここで香水のブレンドはできますか?」
あァ~、やっぱり来た!
店ではこの質問が一番多いのだが、「残念ながら薬事法の関係で店頭での香水のブレンドは不可です。
でも、お客様が購入後に自分でブレンドするぶんには大丈夫ですよ・・」
彼の顔が少し曇った後にはにかんで微笑んだのがわかった。
そういうことならば、あとは自分のイメージする“素香の相性”さえ解れば何とかなる。
さあ、カンセリングの始まりだ!
基本になる香調は“柑橘系”だそうだ。
んっ、“時空香”の基本香調が“柑橘系”?
一瞬、とまどった。
もっと重厚な香調が基本なのかなと思ったが、それが彼のイメージなのだろう。
それならばということで「クリオスティー」からテイスティングが始まった。
途中で聞いた話だが、基本になる“柑橘系”の素香は自身で用意できているらしい。
ということは、その私物の素香に合う香りが見つかれば目的が達成されるということだ。
しかし、先述の通りこれは相当長丁場の接客間違いなしである。
芸術家の卵、これ見よがしの彼の風貌がそれをものがたっている。
よし、わかった!
「ここに置いてある香りは全部使っていいから、自分で納得のいく香りを見つけてみて・・・」
そうして、彼とFINCA香群との“香遇作業”が始まったのだ。
当方はというとルーティーン業務に戻り黙々と作業を続ける・・・
しかし、お客さんをほっといて自分の業務をこなすって・・こんな店があっていいのか!?
イヤ、イイのだ!
ここは元々、FINCAユーザーの為のテイスティングルームをコンセプトとして造った経緯があるのだ。
香りに興味がある人は誰でも自由に香りを試せるのは、この店本来の主旨に沿うものだし、
やる気満々の彼の為にもその方がイイのだ。
そして2時間ほど後、「お願いしま~す」の声。
「オーっ、見みつかりましたか!」
「ハイ!」
「それはよかった、よかった。卒論に間に合いますね」
微笑みながら彼がうなずく。
彼にとっての「時空香」が見えた瞬間だったのだろう。
ちなみに彼が選んだのは「Pioccha」「MOON ROSE」「SHABON WATER」の3種である。
まことに微笑ましいこの3種にウンウン!当方も何故か納得!
さて、お会計・・
ンッ?彼の顔が冴えない・・
プライスパネルを見ているのだが・・
「あのォ、容量がもうちょっと小さいのないでしょうか?3種類の使う液量がそれぞれ違うので・・」
なるほど、彼は彼なりに選んだ3種のブレンド比率をすでにイメージできているのだ。
ここKAORI BAR FINCAでのEDT(オードトワレ)の最小販売量は30ML=2,052-と表記している。
ということは3種各30MLで・・、2,052-×3=6,156-となるわけだが・・
彼の顔色は相変わらず冴えない・・
言ってしまおうか・・助け舟・・
「この店は量り売りが基本だから多少の容量の融通はできるよ・・、全部でどの位の量が必要なの?」
彼曰く「50MLぐらいかな・・」
ん~ッ、50MLという単位は現在のところ当店の価格設定にはないのだ。
機転発揮!
「じゃ、60MLの全体量でそれぞれの量を決めてみたら・・
そしたら、60ML=3,780-で済むから。」
彼、再度はにかみ笑い・・
かくして、Pioccha=30ML/MOON ROSE=20ML/SHABON WATER=10ML:合計60ML=3,780-
これですっきり商談成立!
不思議なことに彼の表情からは“芸術家の卵”としての“毒気”のようなものが消え、
ごく普通の大学生の表情になっていた・・
彼の言う「時空香」の卒論の仕上げのメドがたったからなのか、
想定以上の出費をしないで済んだからなのか・・
それはわからないが・・
お気に入りの香りに巡り合い、
それを手にした人達の表情は誰もがトキメいている・・
25年前からそれは今も変わらない
帰り際に当方からお願いをしてみた・・
「今度、その香水を入れる容器のデザインを見せていただけますか?」
「わかりました、また来ます」
彼の顔がさらにトキメいていた・・
新たな“香遇”を期待する自分がそこにいた・・・
Ps.
今年、しょっぱなの“香遇者”は〇〇美大生でした。
「時間の香り」は次回にさせていただきますのでよろしくお願いいたします。
謎めいた黒い巾着袋?が印象的だった〇〇美大生の〇〇君・・2018/1/12香遇
24/01/12
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昨年中は大変お世話になりました。
遅ればせながら本年も何卒よろしくお願い申し上げます。
さて、その日の開店一番に電話があり「本日はやっていますか?」という若い男性のおとなしい声だった。
店の一階入口玄関の扉を開けると、歩道の反対側の少し離れた所に一人の男性が立っていた。
視線が合うやいなや、近寄ってきたので、「もしかして、さっきの電話の方かな?」と思ったら案の定、「先程はどうも・・」という挨拶だった。
地下店舗への階段を一緒に降りながら「誰かに聞いてこの店に来たの?」と尋ねてみたが、自ら探して来たという事だった。
聞くところによると、○○美大生で、卒論の仕上げのクライマックスとのことだった。
その卒論のテーマというのが何と「時空と香り」という壮大!?なテーマだそうだ。
誰に聞いても何を言っているのか、雲をつかむようなテーマにしか聞こえないだろうと思うが・・。
その「時空と香り」という卒論のテーマの中に登場する“香水”を探しに来たのだという。
容器のデザインと製作は既に終了しているらしく、
中に入れる液体=「香水」を自分の時空イメージで造るのだそうだ。
当方も実は昨年暮れから今年の初めにかけて、3年4か月程住んだ以前の所から新居に引っ越しをしたので、その時に感じた“時間の匂い”というようなタイトルで当コラムを書こうかなと思っていたので、俄然興味が湧いたのだった・・・
「それにしても世の中には似たようなことに興味を持つ人がいるものだなあ・・、
この人も少し変わった人なのかもしれないなあ・・他人のことも言えないけど・・?
“美大生”ということからしても何かを創造したいのだろうと思うが・・
直観的にこれは接客時間が相当かかるだろうなと思った・・・
なんせ、「時空と香り」という卒論テーマを象徴する“香りのオブジェ”を造るわけだから。
話を聞いていくと、香りは小さい頃から好きで興味があったそうで、すでに“時空香”のイメージは出来ているとのことだった。
さすれば、そのイメージに合う「素香」を求めにここへやって来たというわけである。
「ここで香水のブレンドはできますか?」
あァ~、やっぱり来た!
店ではこの質問が一番多いのだが、「残念ながら薬事法の関係で店頭での香水のブレンドは不可です。
でも、お客様が購入後に自分でブレンドするぶんには大丈夫ですよ・・」
彼の顔が少し曇った後にはにかんで微笑んだのがわかった。
そういうことならば、あとは自分のイメージする“素香の相性”さえ解れば何とかなる。
さあ、カンセリングの始まりだ!
基本になる香調は“柑橘系”だそうだ。
んっ、“時空香”の基本香調が“柑橘系”?
一瞬、とまどった。
もっと重厚な香調が基本なのかなと思ったが、それが彼のイメージなのだろう。
それならばということで「クリオスティー」からテイスティングが始まった。
途中で聞いた話だが、基本になる“柑橘系”の素香は自身で用意できているらしい。
ということは、その私物の素香に合う香りが見つかれば目的が達成されるということだ。
しかし、先述の通りこれは相当長丁場の接客間違いなしである。
芸術家の卵、これ見よがしの彼の風貌がそれをものがたっている。
よし、わかった!
「ここに置いてある香りは全部使っていいから、自分で納得のいく香りを見つけてみて・・・」
そうして、彼とFINCA香群との“香遇作業”が始まったのだ。
当方はというとルーティーン業務に戻り黙々と作業を続ける・・・
しかし、お客さんをほっといて自分の業務をこなすって・・こんな店があっていいのか!?
イヤ、イイのだ!
ここは元々、FINCAユーザーの為のテイスティングルームをコンセプトとして造った経緯があるのだ。
香りに興味がある人は誰でも自由に香りを試せるのは、この店本来の主旨に沿うものだし、
やる気満々の彼の為にもその方がイイのだ。
そして2時間ほど後、「お願いしま~す」の声。
「オーっ、見みつかりましたか!」
「ハイ!」
「それはよかった、よかった。卒論に間に合いますね」
微笑みながら彼がうなずく。
彼にとっての「時空香」が見えた瞬間だったのだろう。
ちなみに彼が選んだのは「Pioccha」「MOON ROSE」「SHABON WATER」の3種である。
まことに微笑ましいこの3種にウンウン!当方も何故か納得!
さて、お会計・・
ンッ?彼の顔が冴えない・・
プライスパネルを見ているのだが・・
「あのォ、容量がもうちょっと小さいのないでしょうか?3種類の使う液量がそれぞれ違うので・・」
なるほど、彼は彼なりに選んだ3種のブレンド比率をすでにイメージできているのだ。
ここKAORI BAR FINCAでのEDT(オードトワレ)の最小販売量は30ML=2,052-と表記している。
ということは3種各30MLで・・、2,052-×3=6,156-となるわけだが・・
彼の顔色は相変わらず冴えない・・
言ってしまおうか・・助け舟・・
「この店は量り売りが基本だから多少の容量の融通はできるよ・・、全部でどの位の量が必要なの?」
彼曰く「50MLぐらいかな・・」
ん~ッ、50MLという単位は現在のところ当店の価格設定にはないのだ。
機転発揮!
「じゃ、60MLの全体量でそれぞれの量を決めてみたら・・
そしたら、60ML=3,780-で済むから。」
彼、再度はにかみ笑い・・
かくして、Pioccha=30ML/MOON ROSE=20ML/SHABON WATER=10ML:合計60ML=3,780-
これですっきり商談成立!
不思議なことに彼の表情からは“芸術家の卵”としての“毒気”のようなものが消え、
ごく普通の大学生の表情になっていた・・
彼の言う「時空香」の卒論の仕上げのメドがたったからなのか、
想定以上の出費をしないで済んだからなのか・・
それはわからないが・・
お気に入りの香りに巡り合い、
それを手にした人達の表情は誰もがトキメいている・・
25年前からそれは今も変わらない
帰り際に当方からお願いをしてみた・・
「今度、その香水を入れる容器のデザインを見せていただけますか?」
「わかりました、また来ます」
彼の顔がさらにトキメいていた・・
新たな“香遇”を期待する自分がそこにいた・・・
Ps.
今年、しょっぱなの“香遇者”は〇〇美大生でした。
「時間の香り」は次回にさせていただきますのでよろしくお願いいたします。
謎めいた黒い巾着袋?が印象的だった〇〇美大生の〇〇君・・2018/1/12香遇